DX人材の種類と求められるスキルとは
2022/09/15
近年「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を聞く機会が増えてきました。
「DX=Digital Transformation」とは、デジタル技術によって人々の生活を革新的に良くすることを指し、経済産業省は「DXレポート」にてDX推進の重要性を説いています。
DXが業務の効率性を上げ、新規ビジネスの展開により顧客満足度を向上させるということは認識していても、「何から取り掛かればいいの?」「AIエンジニアやデータサイエンティストの仕事なのでは?」などと思う方もいるかもしれません。
DXは企業全体で取り組む必要があり、推進するにはITスキルだけでなく多くのスキルやマインドセットを備えた人材が必要になります。
今回は、DX推進にはどんな職種の人材が必要なのか、そしてどんなスキルが求められるのかについてお話ししていきます。
既にエンジニアとして活躍されている方はもちろん、企業のDXを進めるための人材を育成したい、外部から相応しい人材をアサインしたいと思っている方も参考にしてみてください。
DX人材とは
DXを推進するためには、ITスキルに加えて経営的な観点をもち、IT技術で事業を変革するための取り組みを率先して行う知識やノウハウを持つ人材が必要です。
従来、多くの企業では、経営層と技術者それぞれに特化した人材が配属され、それぞれの領域内で責務を全うしていました。しかし企業の経営にデジタル技術が密接に関わるDXでは、両者を別々に扱うことはできません。
DXに関わる人材は、経営力と技術力の両方において高い技術を保有することが求められます。
DX推進に必要な6種の人材
独立法人情報処理推進機構「IPA」は、2020年5月「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」にて、DX推進には下記の職種の人材が必要になると示しています。
<DX推進に必要な人材>
・プロダクトマネージャー
・ビジネスデザイナー
・テックリード
・先端技術エンジニア
・データサイエンティスト
・UI/UXデザイナー
・エンジニア/プログラマー
※引用:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査
それぞれの特徴と求められるスキルについてお話ししていきます。
プロダクトマネージャー(PdM)
特徴・業務内容
ビジネスプロデューサーと呼ばれることもあり、DX推進事業において主導権をもつリーダー的存在です。
経営的視点を持ち、自社のビジョンを深く理解した上で、デジタル技術を活用したビジネスモデルをゼロベースから組み立てて推進していく立場となります。
求められるスキル
顧客やパートナー、部門を横断して事業を推進していく調整力やマネジメント力、そして市場のニーズや経済の変化を敏感に読み解く力が必要になります。
具体的には、自社の得意分野や顧客や仕入れ先との関係性、競合他社の特徴、自社のビジネスプロセスなどについて把握し、各部門に必要な人材の採用や育成に尽力できるような、管理職クラスの人材が任命されることが多いでしょう。
各部署のキーパーソンから厚い人望を得ていて、大きなプロジェクトチームを動かした経験がある方がこの立場に適しています。
この立場の人材を確保して自社にふさわしいDXの進め方を把握しておかないと、DXの理解が進まずに部署間での軋轢が生じたり、IT部門の負担が倍増したりして頓挫してしまう可能性があります。
先行する企業のDX事例を真似するのではなく、自社にふさわしいDXの進め方を把握して企業の方向性を明確にしておく必要があります。
ビジネスデザイナー
特徴・業務内容
プロダクトマネージャーとともに、マーケティングをしながらデジタル技術を活用した企画を立案し、事業を進めていく仕組みを構築します。
社内のチームやパートナー企業とともに事業を行う場面もあるため、チーム内の相互理解やサポートを行いつつ、アイデアを具現化してプロダクトに落とし込んでいきます。
求められるスキル
自社のビジネスを理解しているとともに、新しいビジネスモデルを企画するアイデア力、そしてそれをプロダクトに落とし込む着想力が求められます。
また、着想したものを様々な相手にわかりやすい言葉で説明するプレゼン力も重要です。特に、既存の仕事にDXに関わる業務が新たに加わる場合、社員の中にはDX推進にネガティブな印象をもってしまう方が出てくることもあり得ます。
そういった事態を防ぐために、業務の分担はもちろん「どのお客様にどういった価値を届けたいか」というDXの目的への理解を深めるファシリテーション能力も求められます。
テックリード
特徴・業務内容
DX業務に関するシステムを設計から実装まで担当する人材で、エンジニアリングマネージャー、アーキテクトとも呼ばれます。
プロダクトマネージャーやビジネスデザイナーが企画した事業を実現するために、要件定義や基礎部分の設計・仕様策定・全体のプロジェクト管理を行います。また、現場のデジタイゼーション(※)促進に向けての具体的な提案も行っていきます。
※業務効率化のためにデジタル技術を取り入れること
求められるスキル
エンジニアとしてのITスキルはもちろん、ビジネス的視点を意識して、効率的に高品質なサービスに落とし込むための設計力が求められます。
デジタル技術の特性と、自社のビジネスの相性を検討しながら取り組むため、AIやデータ分析といった先進技術も含めた幅広いIT技術に精通している必要があります。
先端技術エンジニア
特徴・業務内容
AI、機械学習、ブロックチェーンなどを使って抽出したデータを活用し、新たなビジネスモデルを生み出す人材です。
DXが推進されるにつれてビッグデータを活用するシーンがますます増えてくるため、さらに先端技術エンジニアへの需要は高まるでしょう。
求められるスキル
AI技術は、スマホの顔認証や店舗の購買行動に活用される画像認識のほか、アレクサなどを代表とする音声認識、自動翻訳機能に代表される言語処理など、様々な場面で活用されており、そこから膨大なデータが収集されています。
このデータを処理して解析する機械学習やディープラーニング、そしてこのデータのセキュリティを保持するブロックチェーンなど、それぞれの特性を活かして事業に役立てるスキルが必要です。
AIの開発や実装には、機械学習に使われるライブラリやフレームワークが充実しているPythonが主に使用されます。他にはC言語やJavaなどが挙げられます。
データサイエンティスト
特徴・業務内容
先端技術エンジニアと似ていますが、ビッグデータの解析・分析を行いつつ、会社の事業や業務の改善に向けて施策を立案していく人材となります。
求められるスキル
統計学などの数学的知識や概念に関する知識のほか、PythonやRなどの関連言語、TableauやSASなどの統計分析ツールに関する知見も求められます。
加えて、論理的思考でデータ分析の結果をビジネスに活用するスキルや、新しいビジネスを提案するドキュメンテーション能力やプレゼンテーションスキルも必要になります。
UI/UXデザイナー
特徴・業務内容
ユーザーとサービスのインターフェース(接点)を示すUIと、モノやサービスが提供する体験を改善することで、サービスの価値を向上させるUX。
ユーザーが使って楽しい、心地よい体験をしてもらい、顧客になってもらうという企業の目的を実現するためにUI/UXデザイナーは欠かせない存在です。
求められるスキル
Webデザインやビジュアルデザイン、Webサイトの設計・構築技術はもちろん、最新のIT技術やトレンドを敏感にキャッチし、それを事業に活かす提案力や表現力も求められます。
エンジニア/プログラマー
特徴・業務内容
テックリードが設計した仕様に基づいて、システムの実装やインフラの構築を行うのがエンジニアです。業務内容やプロジェクトによっては、外部に頼ることも多いポジションです。
求められるスキル
DXはIT業界だけでなく、生産や物流のほか、飲食業界など様々な現場で適切な開発を行う必要があるため、より多くの現場に関わった実績があるほど活躍の幅が広がります。
サービスやプロダクトを開発していくうえで、アジャイル開発手法が多く導入されています。何度も修正を繰り返して改善していくやり方に抵抗がなく、場合によっては要件定義や基本設計から携われる方は、DXエンジニアとして需要が高いでしょう。
DX人材に求められるスキル
DXに関わるには、職種を問わず求められるスキルや必要なマインドがあります。
求められる技術
先進技術やトレンド、クラウドに関する知見
DXを推進するには、「AIやIoTといった先進技術をどのように自社のビジネスに活かせるか」が重要なテーマになるため、データサイエンティストや先進技術エンジニアでなくても、それぞれの特徴や導入コストについての知見は必要です。
また、必要なリソースを必要なタイミングで利用できるクラウドは、今後さらに需要が伸びると予想されます。代表的なクラウドサービスAWSを扱えることは必須条件となるでしょう。
ビッグデータや機械学習に関する知見
コスト削減や業績拡大、新規事業の提案には、ビッグデータの活用や分析・予測結果は欠かせません。データの扱い方や活用方法についてある程度把握しておく必要があります。
また、AIの特性に合わせたフロントエンド・バックエンド処理をするために、AIに関する知見とITに関する知見も求められます。
こういった知見があることで、自社の強みやノウハウと先進技術の融合という他社に無い優位性を生み出すことができます。
UX・UI志向
ユーザーに愛されるサービスを提供するために、優れたUX・UIは不可欠です。ユーザーの行動を調査・分析してニーズを汲み取り、それに応えるサービスを生み出す「顧客中心」の考えは、デザイナーだけでなくDXに関わる全ての職種に必要な観点です。
DX人材に求められるマインドセット
DXを率先して進める人材には、以下のマインドセットを備えている方が向いています。
チャレンジ精神をもって困難な状況に取り組む力
企業の既存のシステムを客観的に分析し、解決すべき課題は無いか、解決するにはどう取り組むべきかを設定する推進力は必要です。
DXは全社内で取り組むべき事柄ですが、経営陣の理解を得られない、部署間で温度差がある、といったトラブルも起こり得ます。
また、実際にデジタル化を進めてもシステムの導入がうまくいかない、適切な人材がいないなど、様々な壁にぶつかる可能性があるため、諦めずに取り組む精神力がある方でないと推進は難しいでしょう。
主体性・好奇心
先進技術に関心が強く、自らこの技術を用いて会社の現状を解決したい、新規事業を立ち上げたい、といった好奇心や主体性の強い方がDX推進には必要です。
周囲を巻き込むコミュニケーション能力
DXは、時には予想もしなかった異業種とのコラボレーション事業を生み出すきっかけにもなります。
そういった事業を始めるとき、周囲を巻き込んでプロジェクトを成功に導く統率力やコミュニケーション能力があるかどうかは重要です。
また、DX事業は入念に計画だてて進めるというよりは、試行錯誤を重ねて改善していく手法で進められることが多いため、臨機応変に対応する柔軟性も求められます。
DX人材になるために役立つ資格
DX推進事業に関わるために必須となる資格はありませんが、以下の資格を保有していると役立つことがあります。
AWS認定資格
クラウドサービスの中でも特に需要の高い、AWSに関する知見は必須です。
基礎レベル、アソシエイトレベル、プロフェッショナルレベル、そして専門知識認定があります。プロフェッショナル以上を取得しているエンジニアは希少なため、独学でAWS認定資格の勉強を進めておくと有利になるでしょう。
Python3エンジニア認定試験
機械学習に携わる方であればPythonは必須言語です。
Pythonはバックエンドでのアプリケーション開発でも利用できるため、汎用性の高い言語として今後も長く使用されると考えていいでしょう。
AIや機械学習、ビッグデータを専門的に扱いたいのであれば、「Python3エンジニア認定データ分析試験」の取得を目指しましょう。
ITコーディネーター試験
ITコーディネーターとは、経営者の視点からデジタル技術の利用について助言・支援を行う立場のことを指します。もともとDX人材を育成するために国家プロジェクトの一環として作られた資格です。
経営戦略・IT戦略策定・IT資源調達・IT導入・ITサービス活用に関する知識に加えて、プロセス&プロジェクトマネジメント・コミュニケーション・モニタリング&コントロールといった経営視点も学びます。
勉強期間は約1か月~1か月半と短く、かつ合格率も高いことから、コストパフォーマンスが高い資格といえるでしょう。IT技術をビジネスにどう活かすか、を学びたい方におすすめです。
ITストラテジスト試験
企業の経営層とともに、IT技術をどのように経営に活用していくかについて戦略を練るエンジニアをITストラテジストといいます。
高いエンジニアスキルはもちろん、IT戦略を策定し、システム化への計画案作成、リスクコントロール、現状分析といった幅広い業務を対応します。
現場にヒアリングを行う能力や経営層にプレゼンする提案力、新規ビジネスの立ち上げにおける推進力といった高いコミュニケーション能力も求められる立場となります。
資格試験では必要な知識やスキルを学ぶことはできますが、様々なプロジェクトに関わった業務経験やチームをまとめた経験があってこそ、ITストラテジストとして活躍できるといえます。
まとめ
DX推進がスピード感をもって進められる中、DX人材は今後IT系企業だけでなく、金融・保険業界、飲食業界、不動産業界、商社など業界を問わず幅広く求められます。
企業の成長のためには、DX導入当初は外部人材を活用しつつ、将来的には自社の業務に精通したDX人材を社内に内製化させる必要があります。
一方で、フリーランスの活用も推進されているので、企業と信頼関係を築くことができれば、今後は業務委託であっても長期的に企業のDX推進にも関わっていくようになるでしょう。
会社のDX推進に関わった経験を積んでおくと、プロジェクト推進力や提案力など、今後のキャリア形成にも活かせるスキルや経験を積むことができます。DX人材として、ご自身は何ができるのかを考えるきっかけになれば幸いです。
・フリーランスだけど安定して働いていきたい
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